最新データから見て
「OECDの学力調査」という言葉を、聞いたことがありますか?
経済協力開発機構(OECD)が15歳の子どもたちを対象に実施している、PISA(学習到達度調査)のことです。
PISAでは、「科学的活用力」「読解力」「数学的応用力」の3分野について、単に知識をどれだけ覚えているかではなく、身につけた知識や技能を実生活の中で活用する力が測られます。
そして結果が発表されると、
「日本は○位!」
という順位が、メディアで大きく取り上げられます。
今回、2025年に実施されたPISAの結果では、日本は、
・科学的活用力 538点・4位
・読解力 503点・4位
・数学的応用力 525点・5位
という結果でした。
日本は、3分野すべてで世界の上位に入っています。
では、日本の子どもたちの学力は高いのでしょうか?
それとも、もっと上げる必要があるのでしょうか?
私は今回の結果を見ながら、そんなことを考えました。
学力を上げることなら、中国は得意です
今回のPISAで、もう一つ目を引くのが中国です。
PISAでは中国全土ではなく、北京・上海・江蘇・浙江の4地域が一つの参加単位として調査に参加しています。
その結果は、
・科学的活用力 597点・1位
・読解力 527点・2位
・数学的応用力 612点・1位
でした。
日本も十分に高い。
でも、この4地域はさらに高い。

そのうちの1つである江蘇省は、私の出身地です。
中国の中でも、受験競争が非常に激しい地域として知られています。
もう20年ほど前のことになります。
私は江蘇省の中でも、比較的学力の高い進学校に通っていました。
高校時代、文系では学校内で上位3位に入る大学入試の成績を取ることができました。
ところが、成績を確認したとき、学校内の順位だけではなく、こんな数字を知らされました。
「あなたの江蘇省内での順位は、○万○千……位です」
今でも、その数字を見たときの感覚を覚えています。
学校の中では上位。
でも、省全体で見れば、何万人もの受験生の中の一人。
それが、私が経験した中国の受験競争でした。
そして、もう一つの地域である上海。
上海は、私が大学時代を過ごした場所です。
経済だけではなく、教育や文化産業も中国国内でトップクラスの都市です。
実際に暮らしてみても、教育資源の豊富さには驚かされました。
博物館や文化施設、さまざまな文化的な行事に触れる機会も多く、学ぶための環境が整っていました。
北京と浙江も多くの名門大学や進学校を持つ教育水準の高い地域として知られています。
そう考えると、
「北京・上海・江蘇・浙江という高い水準の地域がPISAに参加すれば、高い点数を取る」
という結果は、私にはそれほど意外ではありません。
むしろ、私が20年ほど中国と日本の教育を見てきて感じるのは、
中国は「学力を上げる」ということに関して、とても長けている
ということです。
学ぶ内容を明確にする。
繰り返し練習する。
試験で求められる力を分析する。
学習時間を確保する。
できなかったところを、さらに練習する。
こうした方法を集団に対して継続的に行えば、学力を一定の水準まで引き上げることはできます。
中国の受験教育には、そうした仕組みの強さがあります。
もちろん、その背景には受験競争の激しさもあります。
しかし学力を高い水準まで引き上げるという目的に限れば、非常に強い仕組みだと思います。
学力を上げるだけでは、子どもは育たない
では、日本も中国のように、もっと子どもたちに勉強させればいいのでしょうか?
私は、そうは思いません。
なぜなら、私自身がその教育環境の中で育ってきたからです。
学力を高い水準まで引き上げることはできる。
でも、それによって必ずしも、
「自分で考える」
「自分で選ぶ」
「失敗しても立ち直る」
「自分は何をしたいのかを考える」
といった、生きていくための力まで育つとは限りません。
勉強ができても、自分に自信を持てるとは限らない。
良い学校に入っても、自分が何をしたいのか分からないこともあります。
だから私は、
学力を上げる方法と、人を育てる方法は、必ずしも同じではない
と思っています。
かといって、
「学力なんて必要ない」
とも思いません。
知識を身につけること。
文章を読み、理解すること。
数学的に考えること。
科学的に物事を捉えること。
こうした力は、子どもが社会の中で生きていくための大切な土台です。
だからこそ私は、
「学力も大切。でも、学力だけを教育の成果にしてはいけない」
と考えています。
日本では今、何が問題なのでしょうか。
では、日本は現状維持で満足していいでしょうか?
それも違います。
今回の日本の結果を見ると、平均点の高さだけでは見えない問題もあります。
低得点層の割合が増え、学力格差が広がっていることが分かりました。

なぜ格差が広がっているのでしょうか。
その理由は一つではありません。
家庭の経済状況、地域差、学校教育、学習環境、子ども自身の意欲など、さまざまな要因が考えられます。
今回の結果だけから、特定の原因を断定することはできません。
その中で、私が特に気になったのが、家庭の関わりについての調査結果でした。
PISAの質問調査では、家庭による子どもの学習への支援的な関わりについて、日本は調査対象となったOECD加盟国の中でも低い水準でした。
例えば、
「その日に学校で何をしたかを聞く」
という項目では、
日本は「毎日・ほぼ毎日」と答えた割合が38.4%。
OECD平均は50.7%でした。
また、
「学校で学んでいることに興味を示す」
という項目では、
日本19.2%に対し、OECD平均は30.6%でした。
この数字を見て、私は少し考え込んでしまいました。
なぜなら、私自身が英語教室で子どもたちを見ていて、似たようなことを感じる場面があるからです。
小学校の低学年のうちは、
「今日は何を習ったの?」
「楽しく過ごせた?」
と子どもに聞いている保護者も多い。
ところが、高学年になるにつれて、
「今、学校で何を勉強しているのか」
「英語教室で何につまずいているのか」
「どんなことを頑張っているのか」
まで把握していないケースも、決して珍しくありません。
もちろん、私の教室での経験だけから、日本全体を語ることはできません。
また、家庭の関わりが少ないことが、そのまま学力格差の原因だと断定することもできません。
それでも、今回の調査結果を見たとき、
「私が現場で感じていたことと、無関係ではないのかもしれない」
と思いました。
日本の子どもには「もう1人の大人」が必要だと思う
日本では今、学力の格差が広がっています。
家庭では、学校での学びに関心を示す割合も高くない。
では、
「家庭でもっと子どもの勉強に関心を持ちましょう」
と呼びかけるのでしょうか。
勉強に興味を持てず、すでに無力感を感じている子どもに、
「学力は大事だから、もっと頑張りなさい」
と無理やり励ますのでしょうか。
私は、どちらも違うと思います。
家庭には、それぞれの事情があります。
親自身の教育経験。
経済的な状況。
仕事の忙しさ。
家庭の中で抱えているさまざまな事情。
そうした違いによって、子どもの学びにどれだけ関われるかに差が生まれるのは、ある意味では自然なことです。
だからこそ、
「家庭にもっと頑張ってもらう」以外の方法を考える必要があるのではないでしょうか。
私がその一つとして大切だと思うのが、地域の大人とのつながりです。
親以外に、自分が頑張っていることに関心を持ってくれる大人がいる。
分からないことがあったときに、相談できる大人がいる。
学校の先生や親とは違う立場から、自分のことを見てくれる大人がいる。
そして、学校という組織の外にも、自分とつながっている場所がある。
私は、そうした環境が子どもには必要なのではないかと思っています。
特に小学校高学年から中学生くらいになると、子どもの世界は少しずつ変わっていきます
親には言いにくいことが出てくる。
学校での人間関係に悩む。
勉強が得意な子と苦手な子の差を意識する。
「自分は何ができるんだろう」と考え始める。
そんな時期には、勉強を教えてくれる人だけではなく、
「あなたのことを気にかけているよ」
と伝えてくれる大人の存在そのものが、大きな支えになるのではないでしょうか。
だから私は、地域の中に、子どもの学びを支えるコミュニティがもっとあっていいと思っています。
そこでは、必ずしも勉強だけを教えなくてもいい。
「最近どう?」
と声をかける。
頑張っていることに気づく。
分からないことを一緒に考える。
失敗しても、もう一度やってみようと思えるように支える。
そんな関わりも、子どもの学びを支える大切な教育の一部だと思います。
日本の子どもたちの学力を上げるには?
では、タイトルに戻ります。
日本の子どもたちの学力を上げるには、どうしたらいいのでしょうか。
私は、もっと勉強させることだけではないと思っています。
学力を伸ばすための、適切な学習方法や環境は必要です。
中国の教育から学べることも、きっとあります。
でも同時に、
「自分のことを気にかけてくれる人がいる」
「分からないときに相談できる人がいる」
「失敗しても、もう一度やってみようと思える」
そんな環境も必要です。
学力を育てることと、人が育つ環境をつくること。
私は、この二つを別々のものとして考えたくありません。
子どもが学び続けられる環境をつくること。
それもまた、日本の子どもたちの学力を上げるための方法の一つなのではないでしょうか。
そして、その環境をつくる役割は、家庭だけでも、学校だけでもない。
地域にいる私たち大人にもできることがある。
私は、そんな教育のあり方を考えています。

OECDデータの詳細は以下です↓
https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pisa/pdf/2025/01_point.pdf



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